0314-0316
「ほい、これ」
「……お茶?………………あっ!」
 綺麗な色のラベルが貼られた、いい香りのする小さな包みを受け取って、ククリは首を傾げた。普段、お茶を用意するのは自分の役目なのに、どうしたんだろう。そこまで考えて、一つだけ、思い当たって、小さく声を上げた。
「あ、ありがとう……!……嬉しい……」
 先月、かつての賑わいを取り戻しつつあるエットル村を訪れた時に聞いた、チョコレートに纏わる、遠い国の素敵な習わし。やってみたい、という自分の我が儘を、聞いてくれただけでも、嬉しかったのに。その続き、なんて、夢みたい、とククリは、花が綻ぶように、微笑んだ。
「……どういたしまして」
 ニケは照れくさそうに、そう言って、それからこっそり、心の中で付け足した。ほんとは、お菓子で返すものらしい、けど。
(甘い物は、明後日、な)

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 逸る気持ちを抑えて、砂時計をひっくり返す。
 それはとても、幸せな時間。

 お茶をお返しにくれた日の、二日後。彼は、今度は甘い香りのする小さな箱と、大きな花束を、あたしにくれました。
「えっと、誕生日、おめでとう、ククリ。……花束は、プラナノから、預かってきた、そっちの箱は……開けてみ」
 悪戯っ子のように笑って、彼は言いました。
 促されるまま、箱を開けると、そこに入っていたのは、あたしの大好きな、チョコレートケーキでした。
 そして、その時あたしは、どうして彼が、お茶をお返しに選んだかを、知ったのです。
 私は、とても、幸せな気持ちで胸が一杯になりました。
「……ありがとう、ニケくん!」

 あれから、数年。
 毎年彼は、お返しに、前の年とは違うお茶をくれます。
 そして、二日後のあたしの誕生日に、ケーキを買ってきてくれます。
 あの日、彼がくれた紅茶は、チョコレートケーキととても良く会うお茶でした。
 今年も、あたしは、お茶を飲みながら、今年は、どんなケーキだろう、と心躍らせます。
 それは、ティーポットにお茶の葉を入れて、待つ時間に似て、とても幸せです。
 
 きっとこの先、年を取って、
 おばあちゃんになっても。
 
 あなたがくれる、この時間がある限り。
 あたしはずっと、この日を心待ちに、するのでしょう。