「通りすがりのモブカップルを見てナチュラルに自分たちの未来を想像してしまい、はたと気付いて照れるニケクク」
大きな紙袋を抱えた少女が、三つ編みを揺らしながら広場にやって来る。何かを探しているらしく、きょろきょろと辺りを見回し、噴水前のベンチにボーッと座っている少年を見つけると、目を輝かせて駆け寄った。
「お待たせ!」
「おー、やっと来たか。またずいぶんと買いこんだな?」
「えへへ、おいしそうなチョコレートがあったの。お茶も買ったし、あ、お願いされてたコーヒーも、ちゃんと買ったよ!」
 呆れ顔の少年の隣にちょこんと腰掛けて、少女は袋を覗き込みながら楽しそうに話す。その内容を聞いて、この二人が、魔王ギリを倒した伝説の勇者と魔法使いだと気付くものはいないだろう。少年――ニケは、少女――ククリに、小さく笑った。
「おお、サンキュ、じゃ、行くか」
「うん!」
 そう言って、ニケはひょい、とククリが抱えていた紙袋を持ち上げる。
「あっ……」
「?なんか、買い忘れたか?」
「ううん、ありがとう」
 当たり前のように優しくしてくれるのが嬉しくて、ククリは微笑んだ。

 広場には沢山の人が行き交い、とても賑やかだ。彼らがそうであったように、噴水前は待ち合わせスポットになっているらしい。二人が歩きだそうとしたその時、白いワンピースを着た女性が、二人の隣に立っていた青年に手を振りながら駆け寄る。青年も嬉しそうにそれに答えると、自然と互いに指を絡めるように手を繋ぎ、並んで町の方へと歩いて行く。
(わあ、素敵……)
 一目で恋人同士だとわかる二人の後ろ姿に、ククリは憧れの目を向ける。
(あたしとニケくんも、いつか、あんな風に、歩くのかなあ)
 肩を寄せ合って、隣をみればきっと、すぐ近くに彼の笑顔があって……。
 想像するだけで、ドキドキして、頬が朱に染まる。
「……ククリ!」
「え、あ、はい!」
「なにボーッとしてんだよ、行くぞ、ほら」
 いつもより少し早口で、ニケは言うと、荷物を持っていない方の手で、ククリの手をとる。
「!」
「人多いから、はぐれんぞ」
「あっ、うんっ、……ありがとう」
 彼に手を引かれて、少し後ろを歩きながらククリは思う。今はこの優しさだけで、胸がいっぱいになってしまうけれど。

(いつか、あんな風に)

 こんな、理由なんて無しに、彼女の手を取れる時が来るんだろうか、と、ニケは思う。けれど、それをしてしまったら、ただ、触れたいという気持ちに向き合ってしまったら。カーッと熱くなる顔に、どうか気付かれませんようにと、彼は心の中で独りごちたのだった。