雨の日の約束
あめあめ、ざあざあざあ

 その日は、この時期には珍しい雨だった。
 そんな雨の中、ジミナ村の外れにある森の奥、魔法オババの家の、更に一番奥の部屋の窓を、小さな手が、コンコン、と、叩く。
(ククリちゃん)
(イルクちゃん!)
 窓越しにかけられた声に、三つ編みの少女が嬉しそうに顔を出す。けれど、雨の中の少女は、悲しそうに俯いて、言った。
(あたし、もういかなくちゃいけないの)
「まって、イルクちゃん!……あれ、……ゆめ?」
 自分の声に驚いて、ククリはハッとする。目に映るのは、先ほどまで自分がいたのと同じ部屋。けれど、ベッドも、机も、あの頃より、幾分か小さくなっていた。『新しいグルグル』を考えている間にうとうとしてしまい、幼い頃の、夢を見たのだ。
(今日は雨だから、きっと、こんな夢を見たのね)
 ククリは自分の頬に残る夢の跡を拭い、小さく笑う。
 その時。再び、コンコン、と雨音に混じって、窓を叩く小さな音がした。
「!」
 まさか、と、勢いよく窓を開ける。
「よ、」
「ゆ、……勇者様!今日も、来てくれたの?」
「あー、うん、昨日、また来るって言ったからさ、……もしかして、寝てた?起こしたなら、悪い」
「だ、大丈夫……」
「そっか、じゃ、そろそろ日が沈むし、オレ、帰るな」
「あ、」
(もう、こられないの)
 雨の中の背中が、あの日と、重なって。
「勇者様!」
「へ?」
「あ、あの、えっと、……ま、また」
 会えるよね、と聞きたいのに、喉に引っかかって出てこない。そんな彼女に、ニケは、ああ、と、いつもの調子で、笑った。
「また、明日な」