特別だけど特別じゃないふたりの話
しまった、と思ったのはきっと、ほぼ同時だった。少女の目の前で、炎が爆ぜ、戦闘用の祭壇と手にしていた聖書を焼く。
 そして、敵が放った最後の火球に、僅かに速く反応したのは、少年の方だった。彼女の前に飛び出すと同時に、叫ぶ。
「伏せろ、ジュジュ!!」
「きゃ……っ」
「……っあ、あちっ……!こ、この……!」
 咄嗟に被った外套が一瞬で焼け落ち、黒い炎が少年に纏わり付く。少年は炎を振り払うように剣を一閃させると、魔法を放った直後で隙の生じた魔物に、一気に斬りかかった。

「ニケくん!」
 魔物を倒すと同時に、彼に纏わり付いていた炎も消える。しかし、彼が立ち上がる気配は無かった。慌てて駆け寄るジュジュに、ニケは顔を向けると、苦笑する。
「……HPが1でも残ってれば死なない……けど……、ダメだ、……い、痛くて動けん」
 苦しそうな声に、ジュジュは眉を顰めた。少しでも楽になるように、うつ伏せになったまま動けないでいた彼を助け、自分の膝を枕に、仰向けに寝かせた。それが、自分を庇って、右腕から胸にかけて、決して軽くは無い火傷を負った彼に、今の自分が出来る精一杯だった。
「悔しいわ、祭壇や聖書がないと、何も出来ない自分が」
 神の言葉で奇跡を起こす事が出来れば、なんとかしてあげられたかもしれないのに。そう思うと涙で視界が滲む。
「泣くなよ」
「貴方に何かあったら……あたし……クーちゃんに嫌われちゃう」
 ジュジュの言葉に、ニケは気が抜けたように笑った。
「……はは、ジュジュらしいな……ま、それはオレもおんなじだけど……お前に怪我なんかさせたら、アイツに、幻滅されちまう……あ、」
「どうしたの?」
「髪……ここ、少し、焦げてら……あー、綺麗な髪、なのに」
 少し眩しそうに目を細めて、ニケは自分を覗き込む少女の長い髪に、自由の利く左手の指をそっと伸ばす。
「バカね、またすぐ伸びるわ」
「そっか、オレも……治れば、なんともない、し、だから、……気に…………」
「……ニケくん?」
 言い切らぬまま、ゆっくりと目を閉じてしまったニケに呼び掛けると、返事のかわりに、髪に触れそうだった指先が、力を失って、彼女の膝の上に落ちる。
「寝ちゃったの?ルナーを差し置いて寝ちゃうなんて、罰が当たるわよ……もう、仕方が無いんだから」
 ぽとり、と、涙が、少女の頬から彼の頬に落ちた。ジュジュは、幼子にするように、彼の金の、密かに美しいと思っていた髪を、仲間が見つけ出してくれるまで、ずっとずっと、撫で続けていた。