矛盾の話
「う……ん」
 呻き声をあげて僅かに身じろぎした気配に、気が付いたか、と声を掛けると、一拍置いて、何事もなかったように背中の上から返事が返って来た。
「……あ、そっか、ククリは?」
 その問いに答えるのは自分の役目ではない。それにおそらく答えはもうわかっているのだ。全く、気に入らない。
「〜っ、よかっ……うぅっ、ごめんなさい……っ」
 隣にいた彼女の声に、彼はその答えが正しい事を確認し、ほっとしたように言う。
「そこにいるんだな、ばか、泣くなよ」
 うん、と懸命に涙を飲み込んで、彼女は頷いて、彼の軽口に、小さく笑った。

「……立てるか?」
「駄目、痛くはないけど、なんか目が……回る……」
「まぁ、そうだろうな、元は奴隷を効率よく働かせるために、無理矢理傷を塞ぐ魔法だ。それに加えて魔力の反発もあるからな、下手すると内側から開くぞ」
「お前……、そういうこと言うなよ……」
「もう少し、寝てろ」
「……うん」

 素直に黙り込んだ彼を背負い直す。視線を感じて、隣を見ると、何か言いたげな瞳と目が合った。
「……どうした」
 少し躊躇って、けれど真っ直ぐ自分を見据えたまま、彼女は言った。
「……少しだけ、あなたのこと、わかった気がする」