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2020年9月の投稿1件]

2020年9月21日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#s100 数百年サルベージ
名も無い水夫と勇者が再開した話

 ずっと、気にかけていることがある。
 私は若い頃、冒険を求めて、船乗りをしていた。
 そんなある日、私は一人の少年に出会った。
 彼は自分たちの船に忍び込んだ密航者だった。
 船長はずいぶんと痩せていた少年を哀れみ、次の港まで船で働くことを条件に、彼を許した。
 彼は話してみれば気の良い少年で、すぐに仲間達に馴染んだが、誰が事情を聞いても、うまくはぐらかして、頑なに口を開かなかった。その時に見せた、真夜中の海のような、昏い瞳が、忘れられない。
 彼は、元気でいるだろうか。どこかで、幸せを見つけただろうか。

「三十年……いや、もっと前か。ふふ、お前さん、背は伸びなかったみたいだがなぁ、ずいぶんと、顔が明るくなった」
 もう殆ど視力のない父にそう言われた少年は、困ったように笑ったが、己の頬に触れる枯れた指を振り払うようなことはしなかった。そして、ぽつりと言った。
「そんなこと、わかるのかよ」
 その言葉を聞いた父は、まるで古ぼけた写真の中の水夫のように、ニカッと笑ったのだ。
「わかるさ、お前のことは、よぉく、覚えてるからな。良かったなぁ、俺に帰る場所ができたように、お前にも、寄る辺が、できたんだな」

 それから父は、ぽつりぽつりと『彼』と別れてからの自分の話を始めた。少年はそれを聞きながら、時折うん、うん、と相づちを打っていた。邪魔をしてはいけないような気がして、私は席を外した。
 日が傾きかけた頃、少年が部屋から出てきて、私に言った。
「爺さん、話疲れたみたいで、寝ちゃったよ」
「……ありがとう、話を合わせてくれて。ねぇ、君、もし行くところがないのなら、うちにいてくれないかしら、父も喜ぶわ」
 私の言葉に、少年は、オレ、まだ旅の途中なんだと、静かに首を横に振った。そして、爺さんに伝えておいて、と大人びた顔で笑った。
「覚えてくれてる人がいて嬉しかった。どうか元気で」

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最終更新日時:
2023年04月17日(月) 01時13分18秒