🗐 rkgk

No.10

#ネタ供養

※あらすじ
スライと些細なことで喧嘩してしまったルンルンと、ニケの理想の女性になりたいと思うククリが、『自分のイメージする少女』になれるというアイテムをもらって変身してみたものの、「素直でかわいい女の子」「しっかりしていてミステリアスな美人」を具体的にイメージしすぎてお互いの姿になってしまう。
目的は果たせなかったものの、戻る前にお互いの想い人にあって「いつもと違う自分たち」にどんな反応をするのか見てみることにするが、すぐに気づかれてしまう。

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「よくわかったわね、でも、駄目よ?」
「……何が」
 苛立ちの混じる声に、ルンルンは心の中で溜息をついて、わざと冷たい笑みを浮かべた。
「あの子を守りたいなら、もっと慎重に動くべきだった。そうね、例えば、この身体は、本物だって言ったらどうする?」
「っ、嘘だ!」
「それならそのナイフで、攻撃できるわよね。どうぞ」
「――っ!くそっ」
 憎しみの焼き付いた瞳で『偽者』を睨み付け、吐き捨てるように悪態をついて、少年はギッと唇を噛んだ。
 『偽者』は、そんな彼に、フッと笑って、優しい声で告げる。
「だから……、次はもう少しうまくやりなさい、ニケくん」
「……え?」
「まぁ、次なんて、無い方がいいんだけどね、安心して、あたしよあたし、……ええと、闇の」
「ルンルンさん?」
 普段は使わない本名で呼ばれて、ルンルンは苦笑して頷いた。どうやら意地悪をしすぎたらしい、と。

「……というわけなの、まあ、こんなに早くバレるとは思わなかったわ、やっぱり盗賊なのね、ちょっと、油断してた」
 ナイフをベルトの隠しポケットに納めたニケに、ルンルンが事情を説明すると(服を交換してしまったので、今は戻れないことも)彼は頷いた。
「……うん、ククリは、もっと、動きに無駄が多いんだ、だから、すぐわかったけど……ま、いいや。これからどうするの、オレはアジト、行くけど」
「そうね、一緒に行くわ、あなたが一緒なら、罠よけも必要ないでしょうし」
「うん」
 再び頷いて、歩き出したニケに、並ぶようにルンルンも歩き出す。『ククリちゃん』の目線で横を伺えば、いつもより顔が近い。
(なるほど、真面目な顔してると、意外と……)
 彼女の気持ちもわかるかも、とルンルンは目を細め、それから、普段はボーッとしてる彼が、こんな顔をしているのは、彼女が心配なのだと思い当たり、罪悪感で胸が痛んだ。
「ごめんなさい、巻き込んでしまって」
 ニケはハッとして、隣を見ると、誤魔化すように、ヘラリと笑う。
「いーよ、別に」
 それから一言も話さずに、二人はガバの野営地にたどり着く。すると待っていたとばかりに、ルンルンの姿をしたククリが彼らに向かって走ってきた。彼女の後ろには、スライの姿も見える。
「おねーさん!ニケくんも!」
 その言葉に、団員達は首を傾げ、ルンルンとニケは顔を見合わせた。やはりこちらも、相手にはバレているようだった。
「おねーさん、ごめんなさい、バレちゃった、あとね、」
「おいくりまんじゅう、とりあえずややこしいから、戻れ」
 ククリに追いついたスライが、長くなりそうな彼女の話を遮って、小屋を指さした。使えと言うことだろう。
「あっ、はーい、じゃあ、おねーさん、行こ!」
 ククリは素直に頷いて笑う。ルンルンは見たことのない自分の表情に苦い気持ちになった。こんな風に笑えたら良かったのに、と。 
 戻る時の飴は、少し辛い、薄荷味だった。ぽんっと音がして、着慣れた服に着替えて、いつもの自分に戻る。安心したような、もったいないような気持ちで、二人は向き合って、笑った。
「そうだ、あのね、おかしら怒ってないって言ってたよ」
「え?本当?……ありがとう、ククリちゃん」
「えへへ、どういたしまして」
 自分のことのように嬉しそうにククリは言った。そんな彼女に、ルンルンは俯く。
「……ククリちゃん、ごめんなさい、もう一つ、お願いしてもいいかしら、あたし、ニケくんも怒らせちゃったみたいで」
「えぇ?ニケくんが、怒る?おねーさんに?」
「そうなの、実は、偽者だって、すぐバレちゃってね……」
 ルンルンが、申し訳なさそうにニケとのやりとりをククリに話すと、ククリは驚いて大きな目を瞬かせた。そして愛おしそうにはにかんで、それから何故か、少しだけ、寂しそうに言った。
「ニケくん、きっとおねーさんに怒ってるんじゃ無いと思う」


「……お前、さては気づいてすぐ、アイツに偽者だって言ったな?それで、痛い目見て凹んでるんだろ」
「うっ、さ、さっすがおかしら~、よくご存じで……」
「お前は、くりまんじゅうのことだけは、やたらと自分が負おうとするんだな」
 軽口を聞き流し、持っていた煙草に火を付けながら、スライが言うと、敵わないと思ったのか、ニケはぽつりと吐露する。
「……だって、オレが、守ってやんなきゃいけないんだ」
 スライは、フー、と、長い煙を吐いた。
「アホ、お前の手の届く範囲なんぞ、たかが知れてる。本気で盗られたくなきゃ、首に縄でも着けておくか、それができないなら、使えるもんは、全部使え」
「……え、っと、……あ、そっか」
 ニケはスライの言葉に戸惑って、頭の中で反芻した。首に縄なんて付けられるはず無い。もしそれで守れたとしても、それは自分が守りたいものではなくなってしまう。なら、使えるもんは使え?そうだ、もしあの時、自分が何とかしなくてはと動く前に、誰かの顔が浮かんでいたなら、手を借りることを考えられたなら、もっと違う行動を取れたのではないのだろうか。つまり。
「オレ、選択肢を間違えたんじゃなくて、最初から、入れ損ねてたって、事?」
 弟子の出した答えに、スライは口角を上げて言った。
「もっとずる賢くなるんだな。できるだろう?」
 師の言葉に、コクンと、真剣な顔で頷いて、ニケは、小さな声で、ありがと、と言った。
「……そーいえば、おかしらは、いつ、『偽者』だってわかったの」
 話題を変えるように、聞いてきたニケに、スライは照れ隠しかと、短くなった煙草の火を消して、深く考えずに答える。
「ん?すぐわかったに決まってるだろ、ま、『あれ』の正体を特定するのには、少し掛かったけどな」
 その答えに、ニケは、ニヤリと笑った。
「何だ、その顔は」
「やっぱり、『本気で盗られたくないもの』なんだ?」
「!この、揚げ足とるんじゃねぇ!」
「ふふふ、怒るって事は図星じゃん。使える者は何でも使え、だろ?」
「……おーおー、全く優秀な弟子だよお前は!!ここで潰しておこう」
「わーっ暴力反対!……っていうかさ、オレに口止めするより、ククリに頼んどいた方がいいんじゃないの?もう遅い気がするけど……」
「……!」
 羽交い締めにした腕の中から、的確なアドバイスをされてしまい、スライはしまった、と小屋の方を見た。ちょうど二人が出てきたところだった。
 スライは突き飛ばすようにニケを離すと、平静を装って、小屋の方に歩いて行く。ニケもそれに続いた。

 スライが二人に気づく少し前、彼女たちは先に何やら騒いでいる彼らを見つけて、ほっとして笑った。どうやら、少年の悩みは、解決したようだ。
「……良かった」
「うんっ、……あ、そっか、おかしらは、ニケくんにとって、おんなじなのね、だから、頼りにできるんだ」
「ククリちゃん?」
 何か合点がいったらしいククリの独り言に、ルンルンは首を傾げた。ククリはにっこりと笑って、彼女に耳を貸してくれるよう頼んで、そっと耳打ちした。
「おねーさん、あのね、さっき言おうとしてたことなんだけどね、おかしら、あたしの事すぐに偽者ってわかってたのに、さっきご飯作るお手伝いしてる時に「なんだ、お前『くりまんじゅう』か」って。正体がわかるまで、言わなかったのよ」
「え?……え??」
「ふふ、あ、二人ともこっちに気づいたみたい、行こう!おねーさん」
 一秒でも早く、彼の元へ行きたいとばかりに駆け出した少女の背中を見送って、ルンルンは小屋の前で立ち尽くした。

 駆け寄ってきた少女は、紛れもなく『ククリ』で、ニケはほっとして、その場に立ち止まって、彼女を迎えた。その表情に、ククリは申し訳なさそうに言った。
「ニケくん、心配掛けて、ごめんなさい」
「……いいよ、オレが、下手踏んで、叱られただけだからさ、でも、ま、一人でこんなとこ来るなよな」
 ルンルンから事情を聞いたのだろう、顔を見るなり謝ってきた相手に、ニケは少しばつが悪そうに言って、苦笑した。
「お、こんなとことは何だ?カマドウマ」
「ひゅーっ、仲がよろしいこって」
 酒の肴ができたとばかりにいつの間にやら二人を見守っていた団員達が、一気に囃し立てる。
「あのな~っ!からかわないでくれよ、だから嫌なんだよ!」
 いつも飄々としている少年が顔を赤くして怒るのが楽しくて、悪い大人達はゲラゲラと大声で笑った。
 ククリはそんな彼らのやりとりを眺めながら、思う。二人きりになれたら、一番に伝えよう、と。
(ありがとう、ニケくん、『あたし』を好きになってくれて)

「何ボーッとしてるんだ」
 背後の喧噪をよそに、小屋まで歩いてきたスライは、ぼんやりと自分を見上げる少女に声を掛けた。ルンルンはかぁっと顔を赤くして俯く。
「あ、あの、……ありがとう、スライ」
 どうして顔を見ると、素直になれないのだろう、いろいろな気持ちが抑えきれないくせに、出てくる言葉はこれが精一杯だった。俯いたままの彼女に、スライもまた、顔を背けながら、言う。
「……おう」
 彼の声に、ルンルンはパッと顔を上げた。彼の横顔はいつも通りの仏頂面だった。けれど、髪から覗く耳は、確かに自分と同じ色に染まっていた。ああ、そうか、とルンルンは微笑む。
 お互いに、何が、とは言わなかった。聞けなかった。だけど、あたし達はきっと、これでいいのだ。素直になれないのなら、言わなくても、わかるようになればいい。
「……飯、くってけ、あんまりアイツらがありがたがるから、くりまんじゅうがはりきって、作りすぎたんだ」
「あら、ククリちゃんが作ったなら、いただくわ」
 いつもの調子で答えた少女に、青年もいつもの調子で、言い返す。
「オレの料理も、上達したんだぞ」
「ふふ、どうかしらね、……楽しみにしてる」
 ルンルンは嬉しそうに言うと、スライに背を向ける。ニケとククリ達を呼ぶ彼女の後ろ姿に、今晩の夕食は賑やかになりそうだな、とスライは静かに笑った。畳む

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2023年04月17日(月) 01時13分18秒